森一起の今夜もコップワイン#006 浅草「相模屋本店 角打ち」 | Wine365

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10. May 2017

森一起の今夜もコップワイン#006 浅草「相模屋本店 角打ち」

 

「もうちょい、ゴールが先やったら、絶対トップば取っとると!」、「なんば言よっとぉ、東京まで走ったっちゃ勝たんばい!」。福岡天神の交差点から、新天町のアーケードに向かう酒屋の前を通ると、いつもおじさんたちが一杯だった。

競艇帰りなのだろうか、パチンコ帰りの人もいたかもしれない。とにかくみんな勝負の反省をしながら、コップにひたひたになった酒を煽っている。

大人っていうのは反省しながら酒を飲むものなんだ、でも、なんだか楽しそうだな。博多から3つ目の駅で小学生だった僕は、角打ちという言葉に漠然と淡い憧れを抱いていた。上京して驚いたことの1つは、東京の酒屋に角打ちがないことだ。立ち飲みの店は見かけるが、酒屋の一角ではない。ちゃんとしたおつまみが出て来るけど、その分お酒も安くはない。でも、パリのカフェみたいにオープンエアで煮込みを出す『正ちゃん』がある街。浅草、雷門の近くに現代を呼吸する角打ちを見つけた。

 

 

雷門通りと国際通りがぶつかる少し手前に、130年続く老舗酒屋「相模屋本店」がある。浅草を代表する業務用酒販店として、地元の人たちには街の酒屋として長い間愛されてきた。その広大なエントランスを、そのまま角打ちにしてしまったのが『相模屋本店 角打ち』だ。角打ちとはいうものの、瀟洒で落ち着いた大人っぽい空間。それでいながら胸を躍らせる角打ちならではの楽しさがある。その雰囲気が開け放された入口から零れ出して、浅草を漂泊する外人たちも次々と店に入ってくる。

 

 

プーアールクルミや豚肉のリエット、オリーブマリネなどのワイン向けのつまみから、板わさ、塩から、豆腐の味噌漬けと日本酒対応も装備して、つまみは全部300円。水牛のモッツアレラなどの高額メニューですら500円と、角打ちとしての矜持を貫いている。選び抜かれたグラスワインも600円から1000円と安い。ただ、それだけの理由なら街の激安居酒屋で座って飲む方がいいという方も多いだろう。しかし、ここには最高の酒場グルーヴを造り出す酒神が存在する。立ち飲みブームの頂点を極めた、伝説の店buchiのアイコンだった岩倉久恵さんだ。彼女の新しいプロジェクトが浅草!それだけでも、ワインのグラスが空いていく。

 

 

さて、そろそろもう1杯、赤か白をお代わりしよう!ドライトマトと鰯のマリネ、ポテトサラダも頼もうか。

雷門通りを通りかかったフランス人カップルが、カウンターの仲間入りをする。

1杯のワインと旨いアテ、お気に入りの酒場があれば、まだまだ、この街は捨てたもんじゃない。

乾杯、相模屋本店。乾杯、女将の久恵さん。かけがえのない今夜に乾杯しよう!

1杯のワインの向うには、少しだけ眩しい明日が見える。

 

 

相模屋本店 角打ち

〒111-0032 東京都台東区浅草1-8-2

電話 03-3844-4196

営業時間 15:00~22:00

定休日 月火水

森一起

街と泡好きなライター

下町ハイボールからシャンパーニュまで街と泡好きなライター、作詞家、ミュージシャン。9年続く、雑誌『料理通信』の人気連載「安くて旨くて何が悪い!」では、東京の目利き。食のキュレートサイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。
好きなワイン ジャン・イヴ・ペロンのヴァン・ド・フランス・ブラン・コティヨン・デ・ダム2013サン・スーフル
好きなつまみ タマリンドソースでグリルした鶏胸肉と青パパイヤをたっぷり挟んだ仏印風バインミーサンド

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